2009年3月14日土曜日

De Gabo a Mario

■一月末にスペインで『ガボとマリオ』という本が刊行され、話題を呼んでいる。ガボというのは、コロンビア出身のノーベル賞作家ガルシア=マルケスの愛称で、マリオは、ペルーの著名な作家バルガス=リョサのことである。

ラテンアメリカ文学の両雄と称せられるふたりの出会いから決別にいたるまでのさまざまなエピソードがつづられている。

一九七六年二月十二日、腕を広げてにこやかな笑顔で近づいてきたマルケスの顔面に、リョサはいきなり強烈なパンチを食らわせた。マルケスは試写室の絨毯の上にひっくり返った。

これはうわさとして今日まで伝わってきた話で、私も半信半疑でその話を聞いてきたが、昨年になって、メキシコの有力紙のスクープとしてそのときの写真が掲載された。

マルケスは左目のまわりが黒く腫れあがり、鼻のつけ根近くにも傷があった。

しかしながら、マリオがなぜガボを殴りつけたのか、その理由は誰にもわからない。そしてこの本を読んでもわからないのである。ふたりとも固い沈黙を守ってきたからだ。

リョサのその時のマルケスへの怒りはおそらく個人的なものだったろうけれど、キューバ革命やフィデル・カストロの評価をめぐって両者がしだいに疎遠になっていったことは確かだ。

それ以前のふたりは、とりわけ一九六〇年代後半のバルセロナでは、家族ぐるみで行き来し、周辺にはコルタサルやフエンテスやドノソといった作家たちがいた。またカルメン・バルセルスやカルロス・バラルといった名だたる出版人たちもいた。彼らによってやがてラテンアメリカの新しい小説群は世界に押し出されていく。

当時のガボとマリオについて語ることは、そのままラテンアメリカ文学の隆盛期の到来について語ることでもある。
「北海道新聞」2009-03-10