
本書はその篤い友情の本質に迫ろうと、二人のさまざまな発言やインタビュー記事を引用しながら、一九七〇年代の半ばにはじまる親交の跡をたどる。またマルケスの周辺の人びとや、友人たちにも精力的に取材し、マルケスと権力者たちが強力に引き合う不思議さを解明しようとも試みる。「ラテンアメリカの大統領はみんなあいつの友だちになりたがっている。けれどあいつもまた大統領たちの友だちになりたいと思っているのさ」とマルケスの友人の一人が語る。
いずれにせよ、フィデルとマルケスの友情がつづいたこの三十年あまりは、キューバにとって波乱の時代であった。自由や人権をめぐるさまざまな問題が生じ、そのつど多くの知識人や文化人がそれぞれの立場を表明しながら、あるときはカストロ政権を擁護し、多くの場合は激しく非難してきた。本書ではそれらの「事件」を振り返りながら、マルケスの言動が検証されるが、けっきょく沈黙を守ることの多かったマルケスは、バルガス=リョサから「カストロの太鼓持ち」と揶揄され、スーザン・ソンタグから「彼の偉大な作家としての義務は、論戦に加わることだと思います、彼が語らないのを、私は許すことができません」と糾弾されるのである。
こうして革命家と作家の一途な友情は、本書ではしだいにマルケスにとって分の悪い展開になっていくわけだが、「年老いた孤独なカリブの独裁者」への理解と憧れが本来的にマルケスにあったからこそ、『百年の孤独』や『族長の秋』のような奥深い傑作が書けたのだともふと気づかされるのである。
「神戸新聞」2010-06-27