2019年2月27日水曜日

Roberto Bolaño /ロベルト・ボラーニョ●『2666』

■ロベルト・ボラーニョは南米チリの作家である。惜しまれて二〇〇三年に五〇歳の若さで亡くなった。『野生の探偵たち』が英訳されて以来、スペイン語圏だけでなく英語圏でも爆発的な人気を博している。遺作となったこの『2666』は、アメリカで二〇〇八年に全米批評家協会賞を受賞した。

 上下二段組で九百ページ近くもある分厚い作品である。生前ボラーニョは残される子供たちの将来を考えて五冊に分け、毎年一冊ずつ刊行することを考えていたようだ。しかしそれぞれに独立性があるとはいえ、やはり五つの物語の総体にこそ、新しく切り開かれた総合小説の妙味が潜んでいると言わねばならないだろう。

 物語の冒頭はこの一文である。――「ジャン=クロード・ペルチェが初めてベンノ・フォン・アルチンボルディを読んだのは、一九八〇年のクリスマスのことだった。当時、彼は十九歳で、パリの大学でドイツ文学を学んでいた。」第一部では男三人と女一人の「批評家たち」が主人公となって、全くの無名から世界的な小説家へと急上昇していく謎の作家アルチンボルディの居所を突きとめるための旅が、しなやかで軽快な口調でつづれれる。さらに舞台はヨーロッパの都市からやがてアメリカとメキシコの国境の町へと移っていき、第二部ではその町に流れ着いた風変わりな大学教授、第三部では取材にやってきたアフリカ系アメリカ人記者が主役を演じる。そして第四部では際限なく繰りひろげられる女性連続殺人事件、第五部ではこの町のどこかに潜んでいる謎の作家アルチンボルディの数奇な生涯が語られる。

 それらの物語のなかに無数の小さな物語が散りばめられ、互いに連関しあいながら、夜空に浮かぶ無数の星がひとつのコンステレーション(星座)を作るかのようである。ボラーニョは短編作家ボルヘスを繰り返し読んできたと言う。ボルヘスは壮大な宇宙の神秘を玉虫色の小球体に閉じ込めたが、ボラーニョはその小球体のなかの膨張する宇宙を描くかのようだ。