
そればかりではない。キューバの山中で、ゲリラ兵士としてカストロとともに戦っていたときもカメラを持ち歩いていたし、革命成立後、来日した折に訪れた広島で自ら撮った写真も残っているのである。
写真展では、そうした折々の作品が二百枚あまり展示されており、スペイン人の専門家が数年がかりで調査、蒐集したものだという。むろんゲバラの遺族やキューバのチェ・ゲバラ研究センターなどの協力も大きく寄与している。
写真の一部は、これまで写真展が開催された国の新聞や雑誌でも紹介されているが、ゲバラがメキシコで取材したスポーツ大会のものでは、選手が棒高跳びのバーを超える劇的な一瞬や、表彰式でのメダリストのユーモラスなポーズも確実に捉えており、なるほどプロらしい技量を感じさせる。
またコレクションのなかには、映画の一場面でようで、どこか郷愁を誘う海辺の写真もある。――波の砕け散る砂浜で、背広姿の中年の男と、腰に手をあてた婦人がたたずんでおり、その遠くを大型船が通り過ぎていく……。
とはいえ、やはり「タンザニア1965年」というキャプションのついたセルフポートレートが否応なくこちらの視線を引きつける。ひげも長髪も落としたランニングシャツ姿のゲバラは、机の上の書類の山の向こうから頭だけをこちらに向け、どこか途方に暮れている様子である。画面全体も傾き、すべてが滑っていくような不安感を漂わせる。ゲバラがボリビアのジャングルで捕らえられ、処刑されるのはその2年後である。
「朝日新聞」2004-10-14