2007年4月30日月曜日

García Márquez

■コロンビアのノーベル賞作家ガルシア=マルケスの代表作『百年の孤独』の新たな版がこのほどスペインの出版社から刊行された。記念特別版なるもので、今年は、マルケスが八〇歳を迎え、『百年の孤独』が世に出てからちょうど四十年という節目の年にあたる。

スペイン王立アカデミーを中心に各国のスペイン語アカデミーが共同で編集を担当し、マルケス自身も校正刷りに目を通し、思い違いを指摘されていたいくつかの箇所に手を入れた。またペルーのバルガス=リョサやメキシコのカルロス・フエンテスといった著名な作家たちの評論やエッセイも収められ、五十五ページにおよぶ詳細な用語集も付された。

これが店頭に並ぶと発売後五日間でたちまち十五万部売れたそうだ。最初の一冊は、三月の末にコロンビアで開催された第四回スペイン語国際会議の席上でマルケスに手渡されたが、このセレモニーのためにマルケスは居住するメキシコから帰国し、スペインの国王夫妻やコロンビア大統領も参列した。

その折りのマルケスのスピーチは断片的にさまざまなメディアで紹介されたが、たまたま私が見たスペインのテレビニュースでは、白いスーツ姿のマルケスは『百年の孤独』をめぐるユーモラスなエピソードを語って会場を湧かせていた。

わりによく知られたエピソードだが、『百年の孤独』をメキシコでようやく書きあげたとき、メルセデス夫人が質屋などで工面してくるお金もとうとう底をつき、原稿の束をアルゼンチンの出版社へ送る郵便代にも事欠いたという話。郵便局で小包を計量したところ、「八十二ペソ」と言われたが、手持ちは五十三ペソしかなかった。思案の末、「原稿をふたつに分け、とりあえず、半分だけブエノスアイレスへ送った」。しかし送ったのは後半の部分だったことにあとになって気がついた…。

その『百年の孤独』はこれまで約四十ヵ国語に翻訳され、四千万部以上売られている。今回のスペイン王立アカデミー版も、三年だけの限定販売だが、百万部を越える日もそう遠くないだろう。
「北海道新聞」2007-4-24