2013年2月17日日曜日

Travesuras de una niña mala/悪い娘の悪戯

■ペルーのノーベル賞作家バルガス=リョサが2006年に刊行した一風変わったラブストーリーである。悪女めいた美貌のニーニャ・マラと人の好い凡庸なニーニョ・ブエノの四十年に及ぶ奇妙な関係を60年代のパリ、70年代のロンドン、80年代のマドリードを舞台に濃密にかつ愉快に描きだす。

 物語の冒頭であやしげな素性の少女ニーニャ・マラは、つぎつぎと男たちを手玉にとって社会的にのしあがっていく。パリで再会したニーニョ・ブエノとベッドを共にしながらも「私が一生一緒にいたいのは、金も権力も途方もないほど手にした男だけ。残念ながらあなたは絶対、候補になりようがないわ」と言ってのける。そしてすでに元外交官夫人になっていた彼女は、数年後にはイギリスの大富豪の奥方におさまるのである。

 しかし日本でヤクザの世話になると歯車が狂いはじめる。東京で再会したニーニョ・ブエノに「誓って言うけど愛じゃない。よくわからないけど愛じゃないの。一種の悪癖、病気と言ったほうが近いかもしれない。私にとってフクダはそんな存在なの」と告白する。

 ニーニャ・マラと日本のギャングの関係を、ペルーという国とアルベルト・フジモリ元大統領の関係に重ね合わせて読むと、リョサ自身の秘かな企(たくら)み、あるいは悪戯(いたずら)がほの見えてくる。リョサはかつて、作家はストリッパーとは逆だ。裸を隠すために服を着込むんだ、と述べたことがあるが、フジモリへの思いを潜めたこのエピソードはまさしくその典型だろう。

 日本で身も心もぼろぼろにされたニーニャ・マラはやがてパリに逃げ帰る。ニーニョ・ブエノはしだいに老いながらも彼女に翻弄されつづけることになる。はたしてふたりのあいだに愛が成立するのか。リョサの腕の見せどころだろう。インタビューで「真の愛の物語を追求したつもりだ」と述べているが、確かに目頭が熱くなる結末だ。